MUSIC

2017.10.23
鳥くんCDライナーノーツ

今年、出会ったアルバムの中で“鳥くん&The PIPITZ”の1st CD『バードレナリンがどばどバード』は抜群に印象に残るものだったので、このアルバムのために書いたライナーノーツの全文をアップします。

もちろんチャンスがあれば、この傑作を聴いてみてください。

 

【鳥くん&The PIPITZ 1st CD『バードレナリンがどばどバード』のライナーノーツ】

あなたが今、手に取っている“鳥くん&The PIPITZ”の1st CD『バードレナリンがどばどバード』は、“鳥愛”と“ロック愛”に満ちたアルバムだ。サウンドや歌詞やタイトルやジャケットのあちこちに鳥くんの思いがちりばめられていて、その一徹さと潔さはカラスも真っ青になるくらい凄いのである。全曲・鳥づくし、全曲・ロックづくし。こんなアルバムは世界中のどこを探しても見つからない。僕は初めて聴いたとき、その痛快さに笑いが止まらなかった。

 

まずThe PIPITZというバンド名だが、今年結成30周年を迎えて絶好調の“Spitz”と似ている。ピピッツは鳥の鳴き声から来ていると思われるが、このセンス、嫌いじゃない。そしてアルバム・タイトルは2曲目「とりーす」の歌詞そのままだ。ダジャレと掛け言葉のダブルパンチが素敵で、このセンス、嫌いじゃない。さらに「とりーす」は、独自のテクノ・ポップを貫く超個性的バンド“POLYSICS”のギター&ボーカル・ハヤシの挨拶言葉「トイス(TOISU!)」にかなり似ている。このセンスも嫌いじゃない。

とにかく『バードレナリンがどばどバード』には、こうした仕掛けがあちこちにある。言葉だけではなく、音楽にも仕掛けがたくさん入っている。1曲目「BW最高」の歌い方は、セックス・ピストルズのジョン・ライドンに似ているし、サビの構造はダウン・タウン・ブギウギ・バンドに似ている。4曲目「オオバンロック」は、ちょっとひねったロックンロールで、イギリスのアニマルズやキンクスに似ている。6曲目「ほじくれ」のオルガン・ソロは、ニューヨークの前衛バンドのドアーズに似ている。10曲目「ツバメのうた」はジミー・クリフのレゲエに似ているし、ラストの「渡り鳥」はR&Bのレジェンドのサム・クックの「Bring it on home to me」に似ている。

ここまでたくさん「似ている」と書いてきたが、それはパクっているという意味ではなく、鳥くんとThe PIPITZのメンバーが本当に音楽が好きで、これまで多くの良い音楽を聴いてきた証拠だと言いたいのだ。彼らは古き良き音楽へのリスペクトを、隠すことなくこのアルバムに注ぎ込んでいる。だから僕は『バードレナリンがどばどバード』を初めて聴いたとき、この溢れかえる音楽愛が嬉しくて、大笑いしてしまったのだ。

 

ドラムスの武藤航さんは、いろいろなリズムを楽しみながら、見事に叩き分けている。ギターの千坂義樹さん、永井真人さん、須藤祐さんは曲に合ったギタースタイルを分担して、カッコいいアンサンブルを醸し出している。特に11曲目「ムクドリだらけ~」のジャンプブルース・スタイルのギター・ソロは聴きモノだ。ベースの石川毅さん、永井真人さんはバンドのボトムをしっかり固めることに専念して、まさに縁の下の力持ち。ピアノ&オルガンの北出満さんはビンテージのヤマハ・オルガンのような音色を奏でて、サウンドにインテリジェンスを加えている。ボーカルの♪鳥くん(永井真人)は、ハスキーでパンクな声から、藤井フミヤのようなスウィート・ボイスまで使い分けて、フロントマンの役割をまっとうしている。このメンバーが揃ってこその、記念すべきバンドの1st CDとなった。ただし、デビュー・アルバムとはいえ、初々しくはない。それはそんじょそこらの新人バンドではなく、音楽が好きな大人が集まって作ったからであって、内容は聴きごたえ充分。1st CDとは思えない高い完成度をもった1st CDなのである。

 

“音楽愛”と並んでこのアルバムを引き締めているのは、なんといっても鳥くんの“鳥愛”だろう。

「ほじくれ」では、土の中に棲む昆虫や軟体動物を捕食する鳥、(シギかなぁ?)の生態を真面目に描く。「ツバメのうた」では“ツバメ目線”に立って、♪つばめの巣を落すんじゃねえ、代わり(注:“変わり”は誤字です)に俺があんたの家を壊してやろうか♪と、心無い人間の仕打ちに抗議する。「オオバンロック」では、真っ赤な目と黒い体、白いくちばしという特徴を的確に捉えて、世界初のオオバン・ソングを作り上げた。しかも♪我孫子市の鳥だぜ!オオバン♪と歌って、地元愛も丸出しにしている。「我孫子に夕日が落ちる頃」もまた地元讃歌で、土地とロックと鳥が堅く結びついているのも、このアルバムがいろいろな人の心を打つ懐の深さを持っていることの一因となっている。

 

僕は音楽評論家として40年間、たくさんの音楽を聴いてきたけれど、こんなアルバムに出会ったことはなかった。マニアックなのだけれど、難しくない。シビアなのだけれど、意地悪ではない。真剣にメッセージしているのだけれど、押しつけがましくない。こうした奇跡が起こったのは、ここに収められている音楽が本当の意味での“遊び心”から出発しているからだろう。

きっと僕も気付いていない細部に、もっとこだわりが潜んでいるような気がする。このアルバムを聴いていると、どんなに仕事が忙しくてもギター・ソロのダビングには徹底的に時間をかけて、笑いながら納得のいくまでレコーディングしているメンバーたちの光景が浮かぶ。

だからこの『バードレナリンがどばどバード』は、真剣に、そして気楽に聴いて欲しいと思うのだ。

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弱虫のロック論2 GOOD CRITIC
著・平山 雄一
出版社: KADOKAWA / 角川書店
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2017.10.23
鳥くんCDライナーノーツ

今年、出会ったアルバムの中で“鳥くん&The PIPITZ”の1st CD『バードレナリンがどばどバード』は抜群に印象に残るものだったので、このアルバムのために書いたライナーノーツの全文をアップします。

もちろんチャンスがあれば、この傑作を聴いてみてください。

 

【鳥くん&The PIPITZ 1st CD『バードレナリンがどばどバード』のライナーノーツ】

あなたが今、手に取っている“鳥くん&The PIPITZ”の1st CD『バードレナリンがどばどバード』は、“鳥愛”と“ロック愛”に満ちたアルバムだ。サウンドや歌詞やタイトルやジャケットのあちこちに鳥くんの思いがちりばめられていて、その一徹さと潔さはカラスも真っ青になるくらい凄いのである。全曲・鳥づくし、全曲・ロックづくし。こんなアルバムは世界中のどこを探しても見つからない。僕は初めて聴いたとき、その痛快さに笑いが止まらなかった。

 

まずThe PIPITZというバンド名だが、今年結成30周年を迎えて絶好調の“Spitz”と似ている。ピピッツは鳥の鳴き声から来ていると思われるが、このセンス、嫌いじゃない。そしてアルバム・タイトルは2曲目「とりーす」の歌詞そのままだ。ダジャレと掛け言葉のダブルパンチが素敵で、このセンス、嫌いじゃない。さらに「とりーす」は、独自のテクノ・ポップを貫く超個性的バンド“POLYSICS”のギター&ボーカル・ハヤシの挨拶言葉「トイス(TOISU!)」にかなり似ている。このセンスも嫌いじゃない。

とにかく『バードレナリンがどばどバード』には、こうした仕掛けがあちこちにある。言葉だけではなく、音楽にも仕掛けがたくさん入っている。1曲目「BW最高」の歌い方は、セックス・ピストルズのジョン・ライドンに似ているし、サビの構造はダウン・タウン・ブギウギ・バンドに似ている。4曲目「オオバンロック」は、ちょっとひねったロックンロールで、イギリスのアニマルズやキンクスに似ている。6曲目「ほじくれ」のオルガン・ソロは、ニューヨークの前衛バンドのドアーズに似ている。10曲目「ツバメのうた」はジミー・クリフのレゲエに似ているし、ラストの「渡り鳥」はR&Bのレジェンドのサム・クックの「Bring it on home to me」に似ている。

ここまでたくさん「似ている」と書いてきたが、それはパクっているという意味ではなく、鳥くんとThe PIPITZのメンバーが本当に音楽が好きで、これまで多くの良い音楽を聴いてきた証拠だと言いたいのだ。彼らは古き良き音楽へのリスペクトを、隠すことなくこのアルバムに注ぎ込んでいる。だから僕は『バードレナリンがどばどバード』を初めて聴いたとき、この溢れかえる音楽愛が嬉しくて、大笑いしてしまったのだ。

 

ドラムスの武藤航さんは、いろいろなリズムを楽しみながら、見事に叩き分けている。ギターの千坂義樹さん、永井真人さん、須藤祐さんは曲に合ったギタースタイルを分担して、カッコいいアンサンブルを醸し出している。特に11曲目「ムクドリだらけ~」のジャンプブルース・スタイルのギター・ソロは聴きモノだ。ベースの石川毅さん、永井真人さんはバンドのボトムをしっかり固めることに専念して、まさに縁の下の力持ち。ピアノ&オルガンの北出満さんはビンテージのヤマハ・オルガンのような音色を奏でて、サウンドにインテリジェンスを加えている。ボーカルの♪鳥くん(永井真人)は、ハスキーでパンクな声から、藤井フミヤのようなスウィート・ボイスまで使い分けて、フロントマンの役割をまっとうしている。このメンバーが揃ってこその、記念すべきバンドの1st CDとなった。ただし、デビュー・アルバムとはいえ、初々しくはない。それはそんじょそこらの新人バンドではなく、音楽が好きな大人が集まって作ったからであって、内容は聴きごたえ充分。1st CDとは思えない高い完成度をもった1st CDなのである。

 

“音楽愛”と並んでこのアルバムを引き締めているのは、なんといっても鳥くんの“鳥愛”だろう。

「ほじくれ」では、土の中に棲む昆虫や軟体動物を捕食する鳥、(シギかなぁ?)の生態を真面目に描く。「ツバメのうた」では“ツバメ目線”に立って、♪つばめの巣を落すんじゃねえ、代わり(注:“変わり”は誤字です)に俺があんたの家を壊してやろうか♪と、心無い人間の仕打ちに抗議する。「オオバンロック」では、真っ赤な目と黒い体、白いくちばしという特徴を的確に捉えて、世界初のオオバン・ソングを作り上げた。しかも♪我孫子市の鳥だぜ!オオバン♪と歌って、地元愛も丸出しにしている。「我孫子に夕日が落ちる頃」もまた地元讃歌で、土地とロックと鳥が堅く結びついているのも、このアルバムがいろいろな人の心を打つ懐の深さを持っていることの一因となっている。

 

僕は音楽評論家として40年間、たくさんの音楽を聴いてきたけれど、こんなアルバムに出会ったことはなかった。マニアックなのだけれど、難しくない。シビアなのだけれど、意地悪ではない。真剣にメッセージしているのだけれど、押しつけがましくない。こうした奇跡が起こったのは、ここに収められている音楽が本当の意味での“遊び心”から出発しているからだろう。

きっと僕も気付いていない細部に、もっとこだわりが潜んでいるような気がする。このアルバムを聴いていると、どんなに仕事が忙しくてもギター・ソロのダビングには徹底的に時間をかけて、笑いながら納得のいくまでレコーディングしているメンバーたちの光景が浮かぶ。

だからこの『バードレナリンがどばどバード』は、真剣に、そして気楽に聴いて欲しいと思うのだ。

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弱虫のロック論2 GOOD CRITIC
著・平山 雄一
出版社: KADOKAWA / 角川書店