MUSIC

2016.08.19
【続★奥田民生 弾き語り物語】弱虫のロック論発売記念ライブを さらに楽しく見る方法 その2
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1998年の“ひとり股旅”ツアーを終えての感触はどうだったのだろう。とにかくツアーが好きな奥田民生は、新作アルバムを掲げての通常のツアーだけでは飽き足らず、シングル1枚でもツアーに出ることがあった。“ひとり股旅”ツアーもその一貫と考えられ、バンドを引き連れてのツアー以外の“ネタ”として弾き語りツアーを思いついたのかもしれない。

しかし、その一方で、手ごたえを感じていたことも確かだった。その証拠に、2004年10月30日に“ひとり股旅スペシャル@広島市民球場”のステージに立つ。球場がもろもろの事情で取り壊されることになり、奥田は広島市民として思い入れのある球場でのライブを熱望。ただ市街地にあるので、騒音の問題が懸念されたときに思い立ったのが“弾き語りスタイル”だった。それにしてもたった一人でスタジアムに立ち向かう勇気のあるアーティストは、そうはいない。98年のツアーの経験が、奥田の背中を押したのは、ほぼ間違いないだろう。

“ひとり股旅スペシャル@広島市民球場”は、野球場というシチュエーションをフルに活かした演出がなされた。スコアボードやアンパイアがライブの進行に絡むなど、ここでしかできないアイデアが満載のライブとなった。

“一人”という身軽さは、バンドとはまた別の発想を呼ぶ。このライブに限らず、“奥田・弾き語り”はその意味でも毎回面白くて聴きごたえのある内容になる。

弾き語りのメリットはセットリストにおいても同じで、自由自在な選曲が可能になる。市民球場では、「野ばら」や「イオン」など奥田自身の代表曲はもちろん、バラエティに富むカバーが飛び出した。大先輩・吉田拓郎の「唇をかみしめて」や、当時の新人バンド“フジファブリック”の「桜の季節」、アジカンの「君という花」など、非常に意義のある数々のカバーが披露された。いちばんビックリしたのは、当時、大ヒットしていたテレビドラマ『冬のソナタ』の主題歌「最初から今まで」を韓国語で歌ったときだった。これには誰もが笑い転げたのだった。

こうして“奥田・弾き語り”のプロトタイプ=原型ができあがった。

 

2011年10月22日には世界遺産で、“奥田民生ひとり股旅スペシャル@嚴島神社”が開催された。この際、面白かったのは、直前の10月2日に渋谷eggmanで行なわれたライブだった。

厳島
事務所の後輩バンド“ザ・ビートモーターズ”の対バン・シリーズの相手を奥田が買って出たもので、30分ほどの弾き語りだったが、前座(笑)とは思えない素晴らしさだった。特にザ・イエロー・モンキーのカバー「バラ色の日々」は、寒気がするほど凄かった。今年、再結成したイエモンだが、2011年当時は復活の気配がまったくなく、僕は久々にこの歌を聴いてとても切なくなったのを憶えている。

そしてこのライブは、実は嚴島神社のリハーサルも兼ねていたのだった。奥田は「バラ色の日々」を嚴島ライブの前半のカバーコーナーの1曲目で歌って、オーディエンスの耳を釘づけにした。前日は大雨、当日も荒れ模様の天気予報を覆してライブ本番中には雨が降らなかったことにも驚いたが、「バラ色の日々」ショックは、僕の中で当分続いた。同世代を生きるバンドに対するリスペクトと、自分のレパートリーの「さすらい」や「すばらしい日々」を同列に扱う奥田の懐の深さは、心底からの感動を誘う。奥田の弾き語りは、そうした気高いミュージシャンシップにあふれているのだった。

 

そして昨年、2015年11月28日、新装なった広島東洋カープの本拠地で“奥田民生ひとり股旅スペシャル@マツダスタジアム”が行なわれた。

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数々の伝説を生んだ“奥田・弾き語り”は、そのつどバージョンアップされてきたが、このマツダスタジアムでのライブは最も完成度が高かった。球場を使った演出、フードやグッズの楽しさ、渡米直前の前田健太と大瀬良大知がインターバルに出演するなど、広島ならでは、奥田ならではのアミューズメントがいっぱいの1日だった。が、何より素晴らしかったのは、やはり奥田のパフォーマンスだった。

「674」から始まった前半は「デーゲーム」や「雪が降る町」などのUNICORNナンバーを含めたシブい内容。「SUNのSON」から始まった後半は、7曲続いたカバーが圧巻だった。同じ事務所の西野カナの「Darling」をカントリー・タッチにアレンジして、改めてメロディの良さを引き出す。矢沢永吉そっくりに歌った「I LOVE YOU,OK」は、『冬のソナタ』並みの面白さ。そして真心ブラザーズの「人間はもう終わりだ!」、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTの「世界の終わり」と続く流れは、奥田が今の世界に感じていることを歌を通して語っている気がして、目の醒める思いだった。

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さらに終盤は「CUSTOM」、「さすらい」という同世代スタンダードでたたみ掛け、アンコールは「最強のこれから」と「風は西から」という同世代へのメッセージで締める。“普通の言葉では伝わらないから、歌で伝える”という奥田の音楽姿勢は、ことに“弾き語りスタイル”でこそ力を発揮する。そんなことを痛感したスペシャルとなった。

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あれから1年。10月4日はどんな“奥田・弾き語り”になるのだろう。ワクワクしてしまうのは僕だけではないだろう。


「弱虫のロック論発売記念ライブを さらに楽しく見る方法 その3」では、NICO Touches the Wallsのライブの魅力について語ります。お楽しみに!!

 

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BOOK by Yu-ichi HIRAYAMA

弱虫のロック論2 GOOD CRITIC
著・平山 雄一
出版社: KADOKAWA / 角川書店
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2016.08.19
【続★奥田民生 弾き語り物語】弱虫のロック論発売記念ライブを さらに楽しく見る方法 その2
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1998年の“ひとり股旅”ツアーを終えての感触はどうだったのだろう。とにかくツアーが好きな奥田民生は、新作アルバムを掲げての通常のツアーだけでは飽き足らず、シングル1枚でもツアーに出ることがあった。“ひとり股旅”ツアーもその一貫と考えられ、バンドを引き連れてのツアー以外の“ネタ”として弾き語りツアーを思いついたのかもしれない。

しかし、その一方で、手ごたえを感じていたことも確かだった。その証拠に、2004年10月30日に“ひとり股旅スペシャル@広島市民球場”のステージに立つ。球場がもろもろの事情で取り壊されることになり、奥田は広島市民として思い入れのある球場でのライブを熱望。ただ市街地にあるので、騒音の問題が懸念されたときに思い立ったのが“弾き語りスタイル”だった。それにしてもたった一人でスタジアムに立ち向かう勇気のあるアーティストは、そうはいない。98年のツアーの経験が、奥田の背中を押したのは、ほぼ間違いないだろう。

“ひとり股旅スペシャル@広島市民球場”は、野球場というシチュエーションをフルに活かした演出がなされた。スコアボードやアンパイアがライブの進行に絡むなど、ここでしかできないアイデアが満載のライブとなった。

“一人”という身軽さは、バンドとはまた別の発想を呼ぶ。このライブに限らず、“奥田・弾き語り”はその意味でも毎回面白くて聴きごたえのある内容になる。

弾き語りのメリットはセットリストにおいても同じで、自由自在な選曲が可能になる。市民球場では、「野ばら」や「イオン」など奥田自身の代表曲はもちろん、バラエティに富むカバーが飛び出した。大先輩・吉田拓郎の「唇をかみしめて」や、当時の新人バンド“フジファブリック”の「桜の季節」、アジカンの「君という花」など、非常に意義のある数々のカバーが披露された。いちばんビックリしたのは、当時、大ヒットしていたテレビドラマ『冬のソナタ』の主題歌「最初から今まで」を韓国語で歌ったときだった。これには誰もが笑い転げたのだった。

こうして“奥田・弾き語り”のプロトタイプ=原型ができあがった。

 

2011年10月22日には世界遺産で、“奥田民生ひとり股旅スペシャル@嚴島神社”が開催された。この際、面白かったのは、直前の10月2日に渋谷eggmanで行なわれたライブだった。

厳島
事務所の後輩バンド“ザ・ビートモーターズ”の対バン・シリーズの相手を奥田が買って出たもので、30分ほどの弾き語りだったが、前座(笑)とは思えない素晴らしさだった。特にザ・イエロー・モンキーのカバー「バラ色の日々」は、寒気がするほど凄かった。今年、再結成したイエモンだが、2011年当時は復活の気配がまったくなく、僕は久々にこの歌を聴いてとても切なくなったのを憶えている。

そしてこのライブは、実は嚴島神社のリハーサルも兼ねていたのだった。奥田は「バラ色の日々」を嚴島ライブの前半のカバーコーナーの1曲目で歌って、オーディエンスの耳を釘づけにした。前日は大雨、当日も荒れ模様の天気予報を覆してライブ本番中には雨が降らなかったことにも驚いたが、「バラ色の日々」ショックは、僕の中で当分続いた。同世代を生きるバンドに対するリスペクトと、自分のレパートリーの「さすらい」や「すばらしい日々」を同列に扱う奥田の懐の深さは、心底からの感動を誘う。奥田の弾き語りは、そうした気高いミュージシャンシップにあふれているのだった。

 

そして昨年、2015年11月28日、新装なった広島東洋カープの本拠地で“奥田民生ひとり股旅スペシャル@マツダスタジアム”が行なわれた。

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数々の伝説を生んだ“奥田・弾き語り”は、そのつどバージョンアップされてきたが、このマツダスタジアムでのライブは最も完成度が高かった。球場を使った演出、フードやグッズの楽しさ、渡米直前の前田健太と大瀬良大知がインターバルに出演するなど、広島ならでは、奥田ならではのアミューズメントがいっぱいの1日だった。が、何より素晴らしかったのは、やはり奥田のパフォーマンスだった。

「674」から始まった前半は「デーゲーム」や「雪が降る町」などのUNICORNナンバーを含めたシブい内容。「SUNのSON」から始まった後半は、7曲続いたカバーが圧巻だった。同じ事務所の西野カナの「Darling」をカントリー・タッチにアレンジして、改めてメロディの良さを引き出す。矢沢永吉そっくりに歌った「I LOVE YOU,OK」は、『冬のソナタ』並みの面白さ。そして真心ブラザーズの「人間はもう終わりだ!」、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTの「世界の終わり」と続く流れは、奥田が今の世界に感じていることを歌を通して語っている気がして、目の醒める思いだった。

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さらに終盤は「CUSTOM」、「さすらい」という同世代スタンダードでたたみ掛け、アンコールは「最強のこれから」と「風は西から」という同世代へのメッセージで締める。“普通の言葉では伝わらないから、歌で伝える”という奥田の音楽姿勢は、ことに“弾き語りスタイル”でこそ力を発揮する。そんなことを痛感したスペシャルとなった。

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あれから1年。10月4日はどんな“奥田・弾き語り”になるのだろう。ワクワクしてしまうのは僕だけではないだろう。


「弱虫のロック論発売記念ライブを さらに楽しく見る方法 その3」では、NICO Touches the Wallsのライブの魅力について語ります。お楽しみに!!

 

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弱虫のロック論2 GOOD CRITIC
著・平山 雄一
出版社: KADOKAWA / 角川書店