MUSIC

2016.08.08
ユニコーン2016論

ニューアルバム『ゅ 13-14』は、とてもユニコーンらしくて楽しいアルバムだ。アルバムタイトルはユニコーンの13作目14曲入りという意味で、ユニコーンの武器である全員が作詞・作曲し、全員がリード・ボーカルを取るというスタイルを活かして、全曲で全力の“音楽の遊び”が展開されている。

今回のアルバムの特色は、5人全員が50代に入ったことを象徴するように、全員の人生観が歌われていることだ。民生は♪するどく駆け抜け 安心したい♪(「すばやくなりたい」)と人生のスピード感を歌い、手島いさむは♪オーレオーレパラダイスは 他にないから♪(「オーレオーレパラダイス」)と新しい天国を発見したことを報告する。ABEDONは♪僕らの未来を 動かす巨大な原動力♪(「サンバ de トゥナイト」)と言葉に対する信頼を叫び、EBIは♪旅は続くぜ ゴールなんてないぜ♪(「道」)と気合を入れる。そして川西幸一は♪しれっとしていたい ケロッとしていたい からっと過ごしたい♪(「フラットでいたい」)といちばん年長らしい希望を述べる。この“それぞれ感”がユニコーンらしくて素晴らしい。13作目と言いながら、フレッシュな5人の50代がここにいる。

その他、脱力系の民生ボーカルと、バックのハードなブギー・サウンドがぶつかり合う「ハイになってハイハイ」では舞台監督のJメンが参加してスタッフもノリノリ。ABEDONのサザン的巻き舌英語風ボーカルの「TEPPAN KING」など、聴きどころが多くある。

 

ここで、少し視点を変えて、『ゅ 13-14』に至る流れを振り返ってみたいと思う。というのも、今作にはここ2、3年のユニコーンから派生している作品群が大きく影響していると思うからだ。ユニコーンはメンバー5人全員が作詞・作曲・リードボーカルができることから、ユニコーン以外のソロやバンドでの活動が積極化してもなんら不思議はない。その“ユニコーン外”の作品作りが、ユニコーン本体に良い意味でフィードバックされているように思うのだ。

 

特に重要なのは、ABEDONの動向だ。ユニコーン再結成アルバム『シャンブル』(2009年)でのABEDON(注:当時は改名前だったので阿部義晴)の活躍は見事だった。まず16年ぶりの復活を印象付けたシングル「WAO!」はABEDON作品で、行きっぷりのいい曲作りでユニコーンの“ポップサイド”を演出。その一方で、「R&R IS NO DEAD」や「HELLO」など、音楽に対する決意や世代感を強く打ち出すコンセプチュアルなナンバーを手掛けたのもABEDONだった。この二面性は、ユニコーン本来のユーモラスな持ち味を保証するのと同時に、2010年代のバンドシーンの中で若いJ-ROCKバンドと一線を画すヒューマンな存在感の核となった。

その後、ABEDON名義で発表されたアルバムには、そうしたABEDONの姿勢がにじみ出ている。たとえば『BLACK AND WHITE』の「サヨナラサムライ」の♪鳥になるか 鬼になるか♪という怖いフレーズには、音楽を発する者の覚悟が描かれている。また『ファンキーモンキーダンディー』の「ことば」は、心に強い影響を与える“言葉”について歌われている。そうした優れた楽曲作りを通して、世の中にとって音楽はどんな意味を持つのか、あるいは音楽活動をしていく中で失ってはならないものについての深い考察がなされていた。最新作『Feel Cyber』もその志向で貫かれている。

『ゅ 13-14』でABEDON が作詞・作曲した「風と太陽」はそうした流れを組む歌で、それを民生が歌っているのが興味深い。また民生が作詞・作曲・ボーカルの「エコー」には♪君のくれた言葉にも エコーがついてた♪というフレーズがあり、どこかでABEDONに呼応している気配がある。

 

手島・川西・EBIが2012年に結成した“電大”も“ユニコーン外”で活発に活動している。今年は初のマキシ・シングル『ジョーカー』をリリースした。ライブ命のこのギタートリオは、川西が脳梗塞で一時休んだものの、復帰すると再びツアー暮らしを開始した。このタフな肉体派は、ユニコーンの在り方に大いなる影響を与えている。『ゅ 13-14』の「マッシュルームキッシュ」は川西の作詞・作曲で、ボーカルはEBIが担当。電大で培った思い切りの良さが、EBIの表情豊かなボーカルに反映されていて楽しい。

 

奥田民生も“ユニコーン外”の活動を楽しんでいる。真心ブラザーズの二人との地球三兄弟、レジェンド・ドラマーのスティーヴ・ジョーダンとのThe Verbsなど参加バンドは数えきれないが、注目したいのは“サンフジンズ”だ。くるりの岸田繁、ドラムの伊藤大地とのロックトリオは、ギターとベースが交換自由。曲自体も歌詞もアレンジもアイデアに富んでいて、瞬発力がユニコーンと非常に似ているのではないかと推測される。おそらく『ゅ 13-14』の奥田の作詞・作曲・ボーカルの「マイホーム」の気軽さは、サンフジンズでの民生に限りなく近いと思われる。ただ、せっかく違うメンバーとやっているのだから、まるっきり同じことをする訳はない。だとしたら「ユニコーンで何をやるのか」という反対側からの発想で、民生の“ユニコーン外”での活動が持ち込まれているということだ。

 

もう一度言おう。ユニコーンはメンバー全員が歌を作り、リードボーカルを取るという強力な武器を持っている。他のバンドに対するアドバンテージは大きく、コンスタントなアルバム制作と精力的なツアーを支える原動力となっている。

またそれはメンバーのユニコーン外での活動を活発化させる。前作『イーガジャケジョロ』から2年と5カ月。ニューアルバム『ゅ 13-14』にはこの2、3年のメンバーそれぞれの音楽遍歴が反映されている。結果、ユニコーンは彼らの一大テーマである“音楽で遊ぶこと”の範囲を、大きく拡大させた。もしかすると9月から始まるツアーのタイトル“第三パラダイス”は、そのことを指しているのかもしれないと、僕はつくづく思うのである。

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BOOK by Yu-ichi HIRAYAMA

弱虫のロック論2 GOOD CRITIC
著・平山 雄一
出版社: KADOKAWA / 角川書店
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2016.08.08
ユニコーン2016論

ニューアルバム『ゅ 13-14』は、とてもユニコーンらしくて楽しいアルバムだ。アルバムタイトルはユニコーンの13作目14曲入りという意味で、ユニコーンの武器である全員が作詞・作曲し、全員がリード・ボーカルを取るというスタイルを活かして、全曲で全力の“音楽の遊び”が展開されている。

今回のアルバムの特色は、5人全員が50代に入ったことを象徴するように、全員の人生観が歌われていることだ。民生は♪するどく駆け抜け 安心したい♪(「すばやくなりたい」)と人生のスピード感を歌い、手島いさむは♪オーレオーレパラダイスは 他にないから♪(「オーレオーレパラダイス」)と新しい天国を発見したことを報告する。ABEDONは♪僕らの未来を 動かす巨大な原動力♪(「サンバ de トゥナイト」)と言葉に対する信頼を叫び、EBIは♪旅は続くぜ ゴールなんてないぜ♪(「道」)と気合を入れる。そして川西幸一は♪しれっとしていたい ケロッとしていたい からっと過ごしたい♪(「フラットでいたい」)といちばん年長らしい希望を述べる。この“それぞれ感”がユニコーンらしくて素晴らしい。13作目と言いながら、フレッシュな5人の50代がここにいる。

その他、脱力系の民生ボーカルと、バックのハードなブギー・サウンドがぶつかり合う「ハイになってハイハイ」では舞台監督のJメンが参加してスタッフもノリノリ。ABEDONのサザン的巻き舌英語風ボーカルの「TEPPAN KING」など、聴きどころが多くある。

 

ここで、少し視点を変えて、『ゅ 13-14』に至る流れを振り返ってみたいと思う。というのも、今作にはここ2、3年のユニコーンから派生している作品群が大きく影響していると思うからだ。ユニコーンはメンバー5人全員が作詞・作曲・リードボーカルができることから、ユニコーン以外のソロやバンドでの活動が積極化してもなんら不思議はない。その“ユニコーン外”の作品作りが、ユニコーン本体に良い意味でフィードバックされているように思うのだ。

 

特に重要なのは、ABEDONの動向だ。ユニコーン再結成アルバム『シャンブル』(2009年)でのABEDON(注:当時は改名前だったので阿部義晴)の活躍は見事だった。まず16年ぶりの復活を印象付けたシングル「WAO!」はABEDON作品で、行きっぷりのいい曲作りでユニコーンの“ポップサイド”を演出。その一方で、「R&R IS NO DEAD」や「HELLO」など、音楽に対する決意や世代感を強く打ち出すコンセプチュアルなナンバーを手掛けたのもABEDONだった。この二面性は、ユニコーン本来のユーモラスな持ち味を保証するのと同時に、2010年代のバンドシーンの中で若いJ-ROCKバンドと一線を画すヒューマンな存在感の核となった。

その後、ABEDON名義で発表されたアルバムには、そうしたABEDONの姿勢がにじみ出ている。たとえば『BLACK AND WHITE』の「サヨナラサムライ」の♪鳥になるか 鬼になるか♪という怖いフレーズには、音楽を発する者の覚悟が描かれている。また『ファンキーモンキーダンディー』の「ことば」は、心に強い影響を与える“言葉”について歌われている。そうした優れた楽曲作りを通して、世の中にとって音楽はどんな意味を持つのか、あるいは音楽活動をしていく中で失ってはならないものについての深い考察がなされていた。最新作『Feel Cyber』もその志向で貫かれている。

『ゅ 13-14』でABEDON が作詞・作曲した「風と太陽」はそうした流れを組む歌で、それを民生が歌っているのが興味深い。また民生が作詞・作曲・ボーカルの「エコー」には♪君のくれた言葉にも エコーがついてた♪というフレーズがあり、どこかでABEDONに呼応している気配がある。

 

手島・川西・EBIが2012年に結成した“電大”も“ユニコーン外”で活発に活動している。今年は初のマキシ・シングル『ジョーカー』をリリースした。ライブ命のこのギタートリオは、川西が脳梗塞で一時休んだものの、復帰すると再びツアー暮らしを開始した。このタフな肉体派は、ユニコーンの在り方に大いなる影響を与えている。『ゅ 13-14』の「マッシュルームキッシュ」は川西の作詞・作曲で、ボーカルはEBIが担当。電大で培った思い切りの良さが、EBIの表情豊かなボーカルに反映されていて楽しい。

 

奥田民生も“ユニコーン外”の活動を楽しんでいる。真心ブラザーズの二人との地球三兄弟、レジェンド・ドラマーのスティーヴ・ジョーダンとのThe Verbsなど参加バンドは数えきれないが、注目したいのは“サンフジンズ”だ。くるりの岸田繁、ドラムの伊藤大地とのロックトリオは、ギターとベースが交換自由。曲自体も歌詞もアレンジもアイデアに富んでいて、瞬発力がユニコーンと非常に似ているのではないかと推測される。おそらく『ゅ 13-14』の奥田の作詞・作曲・ボーカルの「マイホーム」の気軽さは、サンフジンズでの民生に限りなく近いと思われる。ただ、せっかく違うメンバーとやっているのだから、まるっきり同じことをする訳はない。だとしたら「ユニコーンで何をやるのか」という反対側からの発想で、民生の“ユニコーン外”での活動が持ち込まれているということだ。

 

もう一度言おう。ユニコーンはメンバー全員が歌を作り、リードボーカルを取るという強力な武器を持っている。他のバンドに対するアドバンテージは大きく、コンスタントなアルバム制作と精力的なツアーを支える原動力となっている。

またそれはメンバーのユニコーン外での活動を活発化させる。前作『イーガジャケジョロ』から2年と5カ月。ニューアルバム『ゅ 13-14』にはこの2、3年のメンバーそれぞれの音楽遍歴が反映されている。結果、ユニコーンは彼らの一大テーマである“音楽で遊ぶこと”の範囲を、大きく拡大させた。もしかすると9月から始まるツアーのタイトル“第三パラダイス”は、そのことを指しているのかもしれないと、僕はつくづく思うのである。

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弱虫のロック論2 GOOD CRITIC
著・平山 雄一
出版社: KADOKAWA / 角川書店