MUSIC

2017.12.20
『BOØWY 1224-THE ORIGINAL-』を見て思い出したこと

BOØWY 1224-THE ORIGINAL-』を見て思い出したこと

それはバンドブームが第2フェイズに移ろうとしていた頃のことだった。1985年にハウンドドッグとレベッカがブレイクして、バンドブームは始まった。それに続いてバービーボーイズやTMネットワークなど、85年以前にデビューしていたバンドがブレイクする。BOØWYもそうしたバンドの一つだった。その後、ブルーハーツやユニコーンなど、85年以降にデビューしたバンドが人気を得て、バンドブームはピークを迎える。

そんな世代交代の真っ最中の87年12月24日のライブで、BOØWYが解散を発表。今、思えば、このライブが日本のバンドシーンが第2フェイズに移行する重要な分水嶺だったと思う。同時に空前絶後の事件でもあった。なぜ事件なのかと言えば、バンドブームにおいて頂点を極めたバンドの最初の解散であり、周辺の事情に一切関係なく、純粋にメンバーの意志による解散だったからだ。僕はこの事件以降、これほど潔い解散を見たことがない。

 

このエポックメイキングなライブが、30年の歳月を経て、『BOØWY 1224-THE ORIGINAL-』として蘇った。このライブは2001年にDVD作品として、2012年にはBlu-rayとしてすでにリリースされているが、今回はオリジナルの16ミリ・フィルムが発見され、DVDでは4:3だったサイズが16:9(ワイド)になり、左右のカットされた部分を見ることができるようになった。またアンコールで演奏された「ONLY YOU」の中盤が数十秒、欠損していたが、それも今回発見されたフィルムに収録されていて、“完全版”を見ることができるようになったのだ。また画質も格段に上がっていて、特に[4K Ultra HD Blu-ray]バージョンは、信じられないほどリアルな画質で氷室京介、布袋寅泰、松井恒松、高橋まことの姿を見ることができる。

この映像作品の試写会に足を運んだ。僕はこの歴史的ライブをリアルタイムで観ていた。それを再び完全な形で観ることができる。それはあの日の追体験となるのだろうか? それとも新たな発見があるのだろうか。

 

会場の明かりが落ちると、歓声が高まる。ここは、今はなき渋谷公会堂だ。クリスマス・イブなので、赤いコスチュームの女子オーディエンスがあちこちにいて、メンバーの登場を待っている。9月にリリースしたアルバム『PSYCHOPATH』がチャート1位を記録して、BOØWYの人気は頂点に達している。入り切れないファンが、会場の外にあふれている。

伝統ある渋公のステージは、どの席からもステージが近く感じられて、いくつもの伝説的なコンサートが行われてきた。この日、僕は取材で行っていた。席は2階の1列目。いわゆる“シルバーシート”というヤツだ。いちばん前なので、僕の前には誰も立っておらず、1階席がゆうゆうと見渡せる。事前に、このライブで何か発表があると聞いていたので、何だろうと思っていた。

だが、ステージの背後に置かれたスクリーンに歯車の回る映像が映し出され、開演が近づくと、そんな懸念はすぐに消えていった。この映像は、スチームパンク(レトロなSF)の影響を受けている。スクリーンには“NO WAR”、“NO AIDS”の文字。BOØWYのコンサート・スタッフは超一流ぞろいで、この日のアイデアも飛び抜けてカッコいい。バンドブームに乗って多くのバンドがシーンをにぎわせているが、BOØWYはサウンドもビジュアルもセンスが突出していて、他の追従をまったく許さない。

すっとメンバーが登場して、オープニングは「LIAR GIRL」。最初から演奏の完成度が高い。氷室のボーカルが、それに鋭く応える。引き締まった歌いぶりで、彼のカリスマ性の源をまのあたりにするようだ。続いて「ANGEL PASSED CHILDREN」。最新アルバム『PSYCHOPATH』の曲順と同じセットリストだ。

ドラム台の下には、BOØWYのライブの定番とも言うべき“蛍光ランプ”が仕込まれている。メンバーの頭上にはぎっしりとライトが並んでいて、渋公での最大規模のライティングになっている。とにかく彼らのライブは、ステージセットも照明も演出プランも斬新で、それまでのものとは一線を画し、音楽シーンに凄まじいショックを与え続けている。

「よく来てくれたな。特別な夜にしようぜ。騒ごうぜ! 愛し合おうぜ!」と氷室。クールなイメージが先行する氷室だが、ファンに対しては優しさを隠さない。歌っている間は研ぎ澄まされた表情をしているが、MCはとてもフレンドリーだ。

「BLUE VACATION」で布袋は効果的にディレイを使って、80`sのUKギターロックのニュアンスを、見事にBOØWYサウンドに取り込んでいる。ギター・ソロの途中で「ジングルベル」のメロディを織り込んで、今日がイブだということを思い出させてくれる。ファンにとっては、たまらないクリスマス・プレゼントだ。

序盤のハイライトは、美しいバース(曲に入る前の短いオリジナルなイントロ)から入った「CLOUDY HEART」だった。BOØWY が85年に再スタートを切った際のアルバム『BOØWY』に収められていたこの曲は、氷室の作詞作曲。名曲中の名曲が丁寧に歌われると、感動した客席から悲鳴のような声があがった。

間髪入れずに氷室が「日本でいちばんにしてくれた、最高のロックンロールを送ります!」と、「MARIONETTE」が始まる.。BOØWYはこの曲で初めてシングル・チャートNo.1を獲得した。このポップなナンバーでも、松井は不動の姿勢とストイックな表情でベースをプレイする。対照的に高橋は、2階席からもわかるような活き活きとしてアクションでドラムを叩く。

見事だったのは「わがままジュリエット」だった。高橋&松井のおおらかなグルーブと、デリケートでシャープな布袋のリズムギター・カッティングが、最高のコンビネーションを発揮する。

ここで氷室がメンバー紹介をする。簡単な言葉だが、それぞれのキャラクターを踏まえた心からの紹介に、会場から熱い拍手が湧く。その一方で自分のことは、「で、まあ、俺が氷室だ」とそっけない。自己紹介に照れるところが、彼の人間性をよく表わしている。

「ホンキー・トンキー・クレイジー」から、終盤の盛り上りに入っていく。モータウン系のハッピーなグルーブで、オーディエンスを踊らせる。エンディングの美メロを会場中で歌う部分が、この曲のいちばん楽しいところ。えんえんとみんなで楽しむ。ここで僕は、「そう言えば、今日は何かの発表があるんだよな」と思い出すが、絶好調のライブの進行に、すぐにまた忘れてしまった。 「IMAGE DOWN」ではまたまたリズムの切れが最高で、次の「NO.NEW YORK」とともに、初期の代表ナンバーでBOØWYは本編を締めくくった。

アンコールを待つ間、入れなかった相当数のファンが、まだ渋公の外で聴いているという話が聞こえてくる。あの噴水の辺りだろうか。

メンバーがステージに戻ってきて、まずは「MEMORY」。『PSYCHOPATH』収録の美しく切ないナンバーだ。氷室が♪スーツケースに すべてつめこんで 気が変わらないうちに ここを離れるよ♪と歌い出す。アンコールにふさわしいリリックを、みんな静かに聴き入っている。エンディングの布袋のダイナミックなギター・ソロに、氷室が真剣な表情で耳を傾ける。その景色は貫禄充分で、このバンドの懐の深さを改めて感じさせてくれたのだった。

2曲目「ONLY YOU」が、布袋のギターと氷室のボーカルだけで始まる。軽快な曲が、少しセンチメンタルに聴こえてくる。氷室の歌の最中に、布袋がドラム台に上がった。手元を見ないでギターを弾き続ける布袋は、遠くを見るような眼差しで、放心しているかのように見える。そんな布袋を、氷室が愛しそうに指さした。なぜか不思議と印象に残るシーンだった。

そして、この後のダブル・アンコールで、氷室はファンに直接、BOØWYが解散することを告げたのだった。そのとき、僕はやっと「発表」の意味がわかった。そうか、これだったのか。

メディアにはこの日まで一切知らせず、ファンに直接“報告”する。これほどフェアな解散の告げ方を、僕は他に知らない。

氷室が言葉を詰まらせる。こちらは心臓をつかまれたように苦しくなる。それからのことは、ほとんど覚えていない。

 

そうした1987年12月24日の一部始終が、『BOØWY 1224-THE ORIGINAL-』に収められている。「ONLY YOU」には、失われていたいちばん大切な場面が、完全復元されている。『BOØWY 1224-THE ORIGINAL-』は2017年12月24日のリリースにさきがけて、東京と大阪で12月12日に[4K Ultra HD Blu-ray]のプレビューが行なわれるという。BOØWYに興味のある人、日本のロック・ヒストリーに関心のある人、バンドのライブが好きな人には、ぜひ観ることを勧めたい。自分たちの信じる音楽と生き方に、忠実に生きたバンドの姿は、30年経った今も真実であり続けている。

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弱虫のロック論2 GOOD CRITIC
著・平山 雄一
出版社: KADOKAWA / 角川書店
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『BOØWY 1224-THE ORIGINAL-』を見て思い出したこと

BOØWY 1224-THE ORIGINAL-』を見て思い出したこと

それはバンドブームが第2フェイズに移ろうとしていた頃のことだった。1985年にハウンドドッグとレベッカがブレイクして、バンドブームは始まった。それに続いてバービーボーイズやTMネットワークなど、85年以前にデビューしていたバンドがブレイクする。BOØWYもそうしたバンドの一つだった。その後、ブルーハーツやユニコーンなど、85年以降にデビューしたバンドが人気を得て、バンドブームはピークを迎える。

そんな世代交代の真っ最中の87年12月24日のライブで、BOØWYが解散を発表。今、思えば、このライブが日本のバンドシーンが第2フェイズに移行する重要な分水嶺だったと思う。同時に空前絶後の事件でもあった。なぜ事件なのかと言えば、バンドブームにおいて頂点を極めたバンドの最初の解散であり、周辺の事情に一切関係なく、純粋にメンバーの意志による解散だったからだ。僕はこの事件以降、これほど潔い解散を見たことがない。

 

このエポックメイキングなライブが、30年の歳月を経て、『BOØWY 1224-THE ORIGINAL-』として蘇った。このライブは2001年にDVD作品として、2012年にはBlu-rayとしてすでにリリースされているが、今回はオリジナルの16ミリ・フィルムが発見され、DVDでは4:3だったサイズが16:9(ワイド)になり、左右のカットされた部分を見ることができるようになった。またアンコールで演奏された「ONLY YOU」の中盤が数十秒、欠損していたが、それも今回発見されたフィルムに収録されていて、“完全版”を見ることができるようになったのだ。また画質も格段に上がっていて、特に[4K Ultra HD Blu-ray]バージョンは、信じられないほどリアルな画質で氷室京介、布袋寅泰、松井恒松、高橋まことの姿を見ることができる。

この映像作品の試写会に足を運んだ。僕はこの歴史的ライブをリアルタイムで観ていた。それを再び完全な形で観ることができる。それはあの日の追体験となるのだろうか? それとも新たな発見があるのだろうか。

 

会場の明かりが落ちると、歓声が高まる。ここは、今はなき渋谷公会堂だ。クリスマス・イブなので、赤いコスチュームの女子オーディエンスがあちこちにいて、メンバーの登場を待っている。9月にリリースしたアルバム『PSYCHOPATH』がチャート1位を記録して、BOØWYの人気は頂点に達している。入り切れないファンが、会場の外にあふれている。

伝統ある渋公のステージは、どの席からもステージが近く感じられて、いくつもの伝説的なコンサートが行われてきた。この日、僕は取材で行っていた。席は2階の1列目。いわゆる“シルバーシート”というヤツだ。いちばん前なので、僕の前には誰も立っておらず、1階席がゆうゆうと見渡せる。事前に、このライブで何か発表があると聞いていたので、何だろうと思っていた。

だが、ステージの背後に置かれたスクリーンに歯車の回る映像が映し出され、開演が近づくと、そんな懸念はすぐに消えていった。この映像は、スチームパンク(レトロなSF)の影響を受けている。スクリーンには“NO WAR”、“NO AIDS”の文字。BOØWYのコンサート・スタッフは超一流ぞろいで、この日のアイデアも飛び抜けてカッコいい。バンドブームに乗って多くのバンドがシーンをにぎわせているが、BOØWYはサウンドもビジュアルもセンスが突出していて、他の追従をまったく許さない。

すっとメンバーが登場して、オープニングは「LIAR GIRL」。最初から演奏の完成度が高い。氷室のボーカルが、それに鋭く応える。引き締まった歌いぶりで、彼のカリスマ性の源をまのあたりにするようだ。続いて「ANGEL PASSED CHILDREN」。最新アルバム『PSYCHOPATH』の曲順と同じセットリストだ。

ドラム台の下には、BOØWYのライブの定番とも言うべき“蛍光ランプ”が仕込まれている。メンバーの頭上にはぎっしりとライトが並んでいて、渋公での最大規模のライティングになっている。とにかく彼らのライブは、ステージセットも照明も演出プランも斬新で、それまでのものとは一線を画し、音楽シーンに凄まじいショックを与え続けている。

「よく来てくれたな。特別な夜にしようぜ。騒ごうぜ! 愛し合おうぜ!」と氷室。クールなイメージが先行する氷室だが、ファンに対しては優しさを隠さない。歌っている間は研ぎ澄まされた表情をしているが、MCはとてもフレンドリーだ。

「BLUE VACATION」で布袋は効果的にディレイを使って、80`sのUKギターロックのニュアンスを、見事にBOØWYサウンドに取り込んでいる。ギター・ソロの途中で「ジングルベル」のメロディを織り込んで、今日がイブだということを思い出させてくれる。ファンにとっては、たまらないクリスマス・プレゼントだ。

序盤のハイライトは、美しいバース(曲に入る前の短いオリジナルなイントロ)から入った「CLOUDY HEART」だった。BOØWY が85年に再スタートを切った際のアルバム『BOØWY』に収められていたこの曲は、氷室の作詞作曲。名曲中の名曲が丁寧に歌われると、感動した客席から悲鳴のような声があがった。

間髪入れずに氷室が「日本でいちばんにしてくれた、最高のロックンロールを送ります!」と、「MARIONETTE」が始まる.。BOØWYはこの曲で初めてシングル・チャートNo.1を獲得した。このポップなナンバーでも、松井は不動の姿勢とストイックな表情でベースをプレイする。対照的に高橋は、2階席からもわかるような活き活きとしてアクションでドラムを叩く。

見事だったのは「わがままジュリエット」だった。高橋&松井のおおらかなグルーブと、デリケートでシャープな布袋のリズムギター・カッティングが、最高のコンビネーションを発揮する。

ここで氷室がメンバー紹介をする。簡単な言葉だが、それぞれのキャラクターを踏まえた心からの紹介に、会場から熱い拍手が湧く。その一方で自分のことは、「で、まあ、俺が氷室だ」とそっけない。自己紹介に照れるところが、彼の人間性をよく表わしている。

「ホンキー・トンキー・クレイジー」から、終盤の盛り上りに入っていく。モータウン系のハッピーなグルーブで、オーディエンスを踊らせる。エンディングの美メロを会場中で歌う部分が、この曲のいちばん楽しいところ。えんえんとみんなで楽しむ。ここで僕は、「そう言えば、今日は何かの発表があるんだよな」と思い出すが、絶好調のライブの進行に、すぐにまた忘れてしまった。 「IMAGE DOWN」ではまたまたリズムの切れが最高で、次の「NO.NEW YORK」とともに、初期の代表ナンバーでBOØWYは本編を締めくくった。

アンコールを待つ間、入れなかった相当数のファンが、まだ渋公の外で聴いているという話が聞こえてくる。あの噴水の辺りだろうか。

メンバーがステージに戻ってきて、まずは「MEMORY」。『PSYCHOPATH』収録の美しく切ないナンバーだ。氷室が♪スーツケースに すべてつめこんで 気が変わらないうちに ここを離れるよ♪と歌い出す。アンコールにふさわしいリリックを、みんな静かに聴き入っている。エンディングの布袋のダイナミックなギター・ソロに、氷室が真剣な表情で耳を傾ける。その景色は貫禄充分で、このバンドの懐の深さを改めて感じさせてくれたのだった。

2曲目「ONLY YOU」が、布袋のギターと氷室のボーカルだけで始まる。軽快な曲が、少しセンチメンタルに聴こえてくる。氷室の歌の最中に、布袋がドラム台に上がった。手元を見ないでギターを弾き続ける布袋は、遠くを見るような眼差しで、放心しているかのように見える。そんな布袋を、氷室が愛しそうに指さした。なぜか不思議と印象に残るシーンだった。

そして、この後のダブル・アンコールで、氷室はファンに直接、BOØWYが解散することを告げたのだった。そのとき、僕はやっと「発表」の意味がわかった。そうか、これだったのか。

メディアにはこの日まで一切知らせず、ファンに直接“報告”する。これほどフェアな解散の告げ方を、僕は他に知らない。

氷室が言葉を詰まらせる。こちらは心臓をつかまれたように苦しくなる。それからのことは、ほとんど覚えていない。

 

そうした1987年12月24日の一部始終が、『BOØWY 1224-THE ORIGINAL-』に収められている。「ONLY YOU」には、失われていたいちばん大切な場面が、完全復元されている。『BOØWY 1224-THE ORIGINAL-』は2017年12月24日のリリースにさきがけて、東京と大阪で12月12日に[4K Ultra HD Blu-ray]のプレビューが行なわれるという。BOØWYに興味のある人、日本のロック・ヒストリーに関心のある人、バンドのライブが好きな人には、ぜひ観ることを勧めたい。自分たちの信じる音楽と生き方に、忠実に生きたバンドの姿は、30年経った今も真実であり続けている。

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弱虫のロック論2 GOOD CRITIC
著・平山 雄一
出版社: KADOKAWA / 角川書店