MUSIC

2016.08.27
【NICO Touches the Wallsライブ・マジック】弱虫のロック論発売記念ライブを さらに楽しく見る方法 その3

2011年6月10日、Zepp Tokyoで観たNICO Touches the Wallsのライブは、とても印象的だった。その日は、この年の4月にリリースしたアルバム『PASSENGER』のツアー“TOUR2011 PASSENGER We are Passionate Messenger”のファイナルだった。中盤から終盤に入るあたりで演奏された「手をたたけ」と「友情讃歌」の2曲が、僕には突出して聴こえてきた。

803

「手をたたけ」は、このライブ後の8月に出るニューシングル曲の初披露であり、「友情讃歌」はバンドの初期の高校時代からあるナンバーだった。どちらも明るいポップチューンなのだが、その誕生にはかなり時間差がある。しかしこの2曲が、僕には重なって見えた。それこそ同じ人間の今と過去が二重映しになるように、影絵の現場を反対側から見るように、二つのNICO Touches the Walls像が遠近感をもって立ち現われたのだった

特に「手をたたけ」の♪去った僕の音楽よ 戻れ♪という歌詞が強烈に残った。この切ない歌詞が、明るくポップなメロディとリズムに乗って歌われるから、余計に気になった。

IMG_2670

「このバンドに一体、何が起きているのだろう」という興味が、僕の中で猛然と湧き上がった。彼らは、何を失くしたのだろう。そして、何を取り戻そうとしているのだろう。「手をたたけ」は、バンドに限らず、誰しもが一度は経験する喪失感や疎外感を歌っている。この歌詞の“音楽”の部分を好きに入れ替えてみればいい。♪去った僕の○○よ 戻れ♪、なんて素敵な歌なのだろう。

 

NICO Touches the Wallsは、ライブでこそ、こうしたマジックを見せてくれる。ライブで特定の言葉やメロディが突然、飛び出して聴こえてくることがある。“飛び出す部分”はいつもインスピレーションに富んでいて、このバンドの預言性やメッセージの鋭さを感じさせる。それが彼らのライブの良さであり、スリルでもある。本人たちが意識してそうしているのかどうかは分からないが、僕は何度もこのスリルを経験している。

 

2014年1月、NICO Touches the Wallsは2度目の武道館ライブに向けてのバージョンアップを目指して、対バン・ツアーを行なった。大阪ではBIGMAMAと、名古屋では[Champagne](その後[Alexandros]と改名)と堂々の対決を果たし、迎えたツアー最終日の23日、東京EX THE
ATER ROPPONGIの相手は、やはり4月に武道館2DAYSを控えたクリープハイプだった。

互いに白熱のライブを展開した後、アンコールでステージに登場したのは、NICO Touches the Wallsのボーカルの光村龍哉と、クリープハイプの尾崎世界観の2人だった。

701

クリープハイプの「傷つける」のイントロが流れ、先に光村が歌い始めると、会場から驚きと歓びの声が上がった。光村は♪後悔の日々があんたにもあったんだろ 愛しのブスがあんたにも居たんだろ♪と情感たっぷりに歌う。“ブス”というニコでは決して使わない単語を光村が歌うと、クリープハイプとはまったく違うニュアンスが伝わってくる。尾崎が歌うと、“あんた=話相手”の元・彼女を少しからかうフレンドリーな雰囲気が醸し出される。が、光村が歌うと、彼女を失ってしまった“あんた”をいたわるように聴こえるのだ。これがクリープハイプとNICO Touches the Wallsの違いと言ってもいいだろう。このたったひと言が、僕には突出して聴こえた。そんなことを考えていたら、尾崎が♪愛なんてずっとさ ボールペン位に思ってたよ 家に忘れてきたんだ ちょっと貸してくれよ♪とハイトーンで切り裂くように歌い継ぐ。オーディエンスの心に沁み込むような光村。突き放す尾崎。天才肌のソングライター同士らしいデュエットだった。終わって、「高いキーに付き合ってくれてありがと」と尾崎が余韻に浸りながら言うと、「下げたらクリープハイプじゃなくなっちゃうじゃん」と光村。「そういうとこが、みっちゃんて男らしい。俺だってニコの歌のキーを下げないよ」。次はNICO Touches the Wallsの「N極とN極」を、尾崎は言葉どおりオリジナルキーで歌い始める。反発し合う似た者同士を描くこの歌に、この対バンの素晴らしさが凝縮されているように僕には思えた。

このライブでもNICO Touches the Wallsのライブのマジックが起こったのだった。だから彼らのライブに足を運ぶのは止められない。

972
714
206

次回はベースの坂倉心悟、ギターの古村大介、ドラムの対馬祥太郎の活躍も含めたNICO Touches the Wallsのライブ・パフォーマンスの魅力について書いてみたい。


「奥田民生 vs NICO Touches the Walls」@豊洲PIT
奥田民生とNICO Touches the Wallsのツーマンイベント、開催決定!

平山雄一公式Web チケット販売特設ページ>>
https://www.yuichihirayama.jp/yowamushirock/

 

 

 

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BOOK by Yu-ichi HIRAYAMA

弱虫のロック論2 GOOD CRITIC
著・平山 雄一
出版社: KADOKAWA / 角川書店
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2016.08.27
【NICO Touches the Wallsライブ・マジック】弱虫のロック論発売記念ライブを さらに楽しく見る方法 その3

2011年6月10日、Zepp Tokyoで観たNICO Touches the Wallsのライブは、とても印象的だった。その日は、この年の4月にリリースしたアルバム『PASSENGER』のツアー“TOUR2011 PASSENGER We are Passionate Messenger”のファイナルだった。中盤から終盤に入るあたりで演奏された「手をたたけ」と「友情讃歌」の2曲が、僕には突出して聴こえてきた。

803

「手をたたけ」は、このライブ後の8月に出るニューシングル曲の初披露であり、「友情讃歌」はバンドの初期の高校時代からあるナンバーだった。どちらも明るいポップチューンなのだが、その誕生にはかなり時間差がある。しかしこの2曲が、僕には重なって見えた。それこそ同じ人間の今と過去が二重映しになるように、影絵の現場を反対側から見るように、二つのNICO Touches the Walls像が遠近感をもって立ち現われたのだった

特に「手をたたけ」の♪去った僕の音楽よ 戻れ♪という歌詞が強烈に残った。この切ない歌詞が、明るくポップなメロディとリズムに乗って歌われるから、余計に気になった。

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「このバンドに一体、何が起きているのだろう」という興味が、僕の中で猛然と湧き上がった。彼らは、何を失くしたのだろう。そして、何を取り戻そうとしているのだろう。「手をたたけ」は、バンドに限らず、誰しもが一度は経験する喪失感や疎外感を歌っている。この歌詞の“音楽”の部分を好きに入れ替えてみればいい。♪去った僕の○○よ 戻れ♪、なんて素敵な歌なのだろう。

 

NICO Touches the Wallsは、ライブでこそ、こうしたマジックを見せてくれる。ライブで特定の言葉やメロディが突然、飛び出して聴こえてくることがある。“飛び出す部分”はいつもインスピレーションに富んでいて、このバンドの預言性やメッセージの鋭さを感じさせる。それが彼らのライブの良さであり、スリルでもある。本人たちが意識してそうしているのかどうかは分からないが、僕は何度もこのスリルを経験している。

 

2014年1月、NICO Touches the Wallsは2度目の武道館ライブに向けてのバージョンアップを目指して、対バン・ツアーを行なった。大阪ではBIGMAMAと、名古屋では[Champagne](その後[Alexandros]と改名)と堂々の対決を果たし、迎えたツアー最終日の23日、東京EX THE
ATER ROPPONGIの相手は、やはり4月に武道館2DAYSを控えたクリープハイプだった。

互いに白熱のライブを展開した後、アンコールでステージに登場したのは、NICO Touches the Wallsのボーカルの光村龍哉と、クリープハイプの尾崎世界観の2人だった。

701

クリープハイプの「傷つける」のイントロが流れ、先に光村が歌い始めると、会場から驚きと歓びの声が上がった。光村は♪後悔の日々があんたにもあったんだろ 愛しのブスがあんたにも居たんだろ♪と情感たっぷりに歌う。“ブス”というニコでは決して使わない単語を光村が歌うと、クリープハイプとはまったく違うニュアンスが伝わってくる。尾崎が歌うと、“あんた=話相手”の元・彼女を少しからかうフレンドリーな雰囲気が醸し出される。が、光村が歌うと、彼女を失ってしまった“あんた”をいたわるように聴こえるのだ。これがクリープハイプとNICO Touches the Wallsの違いと言ってもいいだろう。このたったひと言が、僕には突出して聴こえた。そんなことを考えていたら、尾崎が♪愛なんてずっとさ ボールペン位に思ってたよ 家に忘れてきたんだ ちょっと貸してくれよ♪とハイトーンで切り裂くように歌い継ぐ。オーディエンスの心に沁み込むような光村。突き放す尾崎。天才肌のソングライター同士らしいデュエットだった。終わって、「高いキーに付き合ってくれてありがと」と尾崎が余韻に浸りながら言うと、「下げたらクリープハイプじゃなくなっちゃうじゃん」と光村。「そういうとこが、みっちゃんて男らしい。俺だってニコの歌のキーを下げないよ」。次はNICO Touches the Wallsの「N極とN極」を、尾崎は言葉どおりオリジナルキーで歌い始める。反発し合う似た者同士を描くこの歌に、この対バンの素晴らしさが凝縮されているように僕には思えた。

このライブでもNICO Touches the Wallsのライブのマジックが起こったのだった。だから彼らのライブに足を運ぶのは止められない。

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714
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次回はベースの坂倉心悟、ギターの古村大介、ドラムの対馬祥太郎の活躍も含めたNICO Touches the Wallsのライブ・パフォーマンスの魅力について書いてみたい。


「奥田民生 vs NICO Touches the Walls」@豊洲PIT
奥田民生とNICO Touches the Wallsのツーマンイベント、開催決定!

平山雄一公式Web チケット販売特設ページ>>

弱虫のロック論2(仮)RELEASE PARTY

 

 

 

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著・平山 雄一
出版社: KADOKAWA / 角川書店